理由がないもの求めていた言葉

2010年09月21日

『八日目の蝉』角田光代


角田光代は名前こそはよく聞くが、まだ一度も読んだことがなかった。
この本で出会ったんだけど、見事にわたしの琴線に触れました。


これは、ふたりの女性に焦点を当てた物語です。


不倫相手との間に出来た子供を堕ろすことになった29歳の希和子は、彼の赤ちゃんを誘拐する。
その子の名前を、「薫」と名付けて。


19歳の恵里菜は家族と学校とに馴染めずにいた。「誘拐された子」というレッテルを拭えず、
もう拭おうともせず。彼女もまた、父親になれない男性の子を身籠る。


悪いのは誰か?

不倫相手の子供を誘拐した希和子か。

不倫をし、希和子に堕ろさせた丈博か。

希和子を中傷し続けた、丈博の妻か。

何らかの事情持ちの女性を「受け入れる」ことで成り立っている組織か。

「誘拐犯に育てられた子」と奇異の目で見る同級生たちか。

父親になれないとわかっていながら不倫関係を続けた岸田か。


うぅん、誰が悪いのでは、ない。誰が悪いと糾弾するための物語でもない。
善と悪に二分できるほど、世の中は単純ではない。

誰もが時には加害者であり、被害者でもあるのだと思う。
しかし、その一方で犠牲になるのは常に、子供たちなのだとも思う。


胸を打ったのが、守ってくれるのもなどなく、ひたすら逃げ続ける希和子の
ただただ薫へと注がれる底知れぬ愛情。

逮捕の瞬間、薫と引き離された時に希和子が叫んだ一言に、涙があふれ出た。
それは、わたしの予想を遥かに超えた一言だったから。


そして、「好きになる、と、好きでいるのをやめる、ということが
どういうことなのか、私にはわからない。…会わなければ忘れるはずなのに、
会いにこられたらどうすればいいのか分からないわからない。」と言う、恵里菜の揺れる気持ち。


悩む恵里菜に向けて、放たれた友人の言葉もまた、感動的だった。
「ねえ恵理菜。あんたは母親になれるよ。ナントカさんて人と、いっときでも恋愛したんでしょ。
自分が好かれてる、必要とされてるってわかったんでしょ。だったら母親になれる。」



母親になるとは、どういうことなのか。命を授かるとはどういうことなのか。
今のわたしはただ、想像するしか出来ない。

ひとつ確実に言えるのは、新しい命が宿ることは奇跡に近いことであり、
また子供を産む・育てるというのは易しいことではないということ。


わたしも将来、母親になると思う。
その時にまた、手にとってみたいと思える本でした。



八日目~1

八日目の蝉は孤独ではない。
まだ見ぬ世界に他の蝉よりも多く、触れているのだ、と。

そんな風に感じました。


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bubba_gump at 23:07│Comments(0)TrackBack(0)book 

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